ヌメ革のお手入れ 〜4015丁目のダイナーが夕陽に染まる頃〜

 
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  西海岸の港町、サン・セントア・アントニオ。夕陽が息をのむほど美しいことで知られるこの街は、しかし、ギャング組織が実権を握り、決して安全な場所ではなかった。
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 そんな街で靴磨きを生業とする若者ボギーは、4015丁目のダイナーで幼馴染のジャニスと向かい合っていた。
「ヘイ、ボギー!」 ジャニスは開口一番そう言うと、間髪入れずにまくしたてた。 
「聞いてくれよ!ボギー!この金で新しい街にトンズラするんだ!三丁目のイカした踊り子、ナンシーも一緒にな!新しい人生、始めるんだ!お前も来るか?」 そう言って、彼はテキーラを煽るように一気に飲み干した。 
「悪いがジャニス、俺はこの街を出るつもりはない」 ボギーが静かに答えると、ジャニスは苦虫を噛み潰したような顔をした。それがボギーの言葉に対するものか、強いテキーラのせいかは分からなかった。 
「マジで何でもありだ!この大金があれば!冷えたシャンパンにキャビア、リブロースだって毎日食えるんだ!」 興奮したジャニスは、ヌメ革のバッグを開けて中身をボギーに見せつけた。札束がぎっしりと詰まっている。 

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「ジャニス。悪いことは言わない。その大金を早くレクターに返すんだ。今ならまだ間に合う。少なくとも命だけは助かるだろう」 ボギーは諭すように言ったが、ジャニスは聞く耳を持たない。 
「この街に残ったって、利用されるだけだ。くしゃくしゃに丸められて、このチリドッグの包み紙みたいに捨てられるのがオチさ」 そう言って、彼は目の前の皿に残ったチリドッグの残骸を顎で示した。
二人の間に重い沈黙が落ちた。
耐えきれなくなったのはジャニスだった。彼は諦めたように口を開いた。 
「分かった。なら無理強いはしないさ。気が変わったら、いつでも連絡してくれ。落ち着いたら手紙を送るよ。砂漠を越えたところに、楽園があるって話だ。ボギー、お前に頼みがあるんだが、乾燥した地域に行くから、このヌメ革のカバンを長持ちさせる方法を教えてくれないか?」
「ヌメ革は日頃のブラッシングが大事なんだ。やわらかいブラシで丁寧にブラッシングすることで、表面のホコリや汚れを落とすのが基本だ。そして半年に一度くらい、デリケートクリームかヌメ革専用のクリームを薄く塗ってやるといい。ヌメ革専用のクリームにはUVカット効果があるから、紫外線による急な変色を抑える効果が期待できる。まあ、革は経年変化を楽しむものだから、そんなに神経質になる必要はないと思うけどな」とボギーはやさしく教えた。
 

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「ヌメ革にクリームを塗るのは、色が変わりそうでちょっと怖いな」ジャニスはヌメ革のバッグを心配そうに見つめたので、ボギーはさらに詳しく説明してやった。
 「クリームを塗る時は、少量ずつ丁寧に伸ばすんだ。塗った直後は少し色が濃くなるけれど、時間が経てば元に戻るから心配ないさ。もしクリームを塗るのに抵抗があるなら、スプレータイプの保革剤も便利だよ。これもUVカット効果があるから安心だ」

IMG-1414.jpg(塗った直後は濃くなるが)

IMG-1415.jpg (時間が経過すると元に戻る)

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 ボギーがそう言い終わると同時に、ダイナーの床に響くヒールの音が近づき、二人のテーブルの傍で止まった。 
「お待たせ、ジャニス。準備できたわ」 大きなトランクを抱えたナンシーが、息を切らせながらやって来た。
 「遅かったじゃないか、ナンシー!」 ジャニスは顔を輝かせてそう言うと、まるで犬が尻尾を振るように、全身で喜びを表した。 
「このトランクに、ありったけの洋服を詰めるのに手間取ったの。もうぱんぱんよ」
「この街の思い出が入るスペースは空けとけよ」 
 「大丈夫。私の胸にしまっているわ」 
「その小さな胸にかい?」 幸せな未来を疑わない二人は、笑い合いながら固く抱き合った。
 対照的に、ボギーの表情は険しいままだった。 この街を牛耳るギャングのボス、レクターが、ボギーの靴磨き屋に現れたのは、二日前のことだった。
 
 震える手で靴磨きを終えたボギーに、レクターは低い声で言った。 『へえ、ボギー。なかなか腕がいいじゃねえか。うちで働いてみねえか?』
『レクターさんの所で、ですか?』 
『ああ。最初は下っ端の仕事かもしれねえが、お前次第でいくらでものし上がれる。ただ一つ条件があってな。一週間前に俺のシマの上納金が入ったヌメ革のバッグが、誰かに盗まれたんだ。聞き込みで分かったんだが、どうやらお前の親友のジャニスが犯人らしい』 
『ジャ...ジャニスが?』
『ああ。おそらく今頃、どこかの女と一緒に高飛びする計画でも練っている頃だろうな』 
『レクターさん。私にどうしろと?』
『始末しろ。この世界で生きていくなら、情けなんて捨てろ。それができるなら、妹のメイの学費くらい、どうにでもしてやる。困ってるんだろ?』 ボギーは、靴磨きで稼いだわずかな賃金を、妹のために大切に貯めていた。この街でレクターが知らないことなど、何もなかった。
  ダイナーの大きなガラス窓の向こうに、黒く鈍い光を放つロールスロイスがゆっくりと停まった。中から出てきたのは、言うまでもなくレクターと彼の部下たちだ。彼らはゆっくりとこちらに向かって歩いてきた。西に傾いた夕陽が、ロールスロイスのボンネットに当たり、不気味な光を反射していた。ダイナーの向こうには、青く輝く美しい海が広がっている。そして、その水平線に今まさに夕陽が沈もうとしていた。
 
 ボギーはこの街の夕陽が好きだった。子供の頃、家族みんなで沈む夕陽を眺めながら、海岸沿いのパークで週末にサンドイッチを食べるのが何よりの楽しみだったのだ。 その時、父から言われた言葉を、ボギーは今でも鮮明に覚えている。『ボギー。この街は不平等だ。悪い奴がとことん良い思いをして、弱い奴が損ばかりしている。だからボギー、お前は強くなるんだ。強くなってママと妹のメイを、そしてこの街の弱い人間を守るんだぞ。でも強いだけではいけない。あの沈む夕陽のようにやさしくなるんだ。夕陽はこの街の弱い人間をやさしく包んでくれるだろ? 分かったかい? ボギー』
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 ボギーは、今まさに運命の選択を迫られていた。レクターに言われた通り友を裏切るか? 友を守るためにレクター一味を敵に回すのか?
  レクターたちは横断歩道を渡り、こちらに向かってきていた。レクターの手下たちは、スーツの左内側に右手を入れている。その右手に握られているものが何なのかは、この街で生まれ育ったボギーにはすぐに分かった。皿の上のチリドッグのくしゃくしゃに丸められた包み紙が、まるで未来の自分の姿と重なって見えた。
 ボギーは深く息を吸い込み、窓ガラスに映る自分の顔を見つめた。夕陽に染まったもう一人の自分が、覚悟を決めた強い眼差しでこちらを見返してきた。 
「ジャニス!それにナンシー!俺の話を聞いてくれ! 時間がないんだ。今すぐ逃げるんだ!この街セントアン...ッ...セントア...ッ...ごめん!」 
監督「はい、カット!」

ジャニス役俳優「おいお前、なんべん同じところでNG出すんだよ! これで52回連続NGじゃねえか!」

ボギー役俳優「申し訳ない」

ナンシー役女優「ねえ監督さん! この人のとこだけ別撮りで撮影してくんない? 最初から取り直すこと無いじゃないの?」

監督「いやあ、このシーンは主人公と幼馴染のそれぞれの生き様が対峙する重要な場面なんだよ。だからワンカットの長回しで撮りたいんだよ」

ジャニス役俳優「でもよ、こいつのせいで撮影5時間も押してるじゃねえか! お前同じとこばかりで噛むけど発声・発音練習ちゃんとしたのかよ?」
ボギー役俳優「一応したんですけど」
ジャニス役俳優「俺が早口言葉言うから、あとに続いて言ってみろよ。赤パジャマ青パジャマ黄パジャマ」
ボギー役俳優「うちの嫁は紫のネグリジェです」
ジャニス役俳優「なんの話だよ。バスガス爆発」
ボギー役俳優「最近のバスはカーボンニュートラルなのでガスで爆発しません」
ジャニス役俳優 「うるせえよお前! おい監督! 早いとこ代役を立てないと、この映画いつまで経っても完成しねーぞ!そうじゃないと俺は降りるぜ!」

ナンシー役女優  「そうよ、ほんとに映画を愛しているなら代役をたてるべきだわ。私もそうしてくんないと降りるわよ!」

監督「そうは言ってもね。もう撮影も進んでるからね。今さら変更なんてできないよ」

ボギー役俳優「監督、そこまで言われて我慢することないですよ。代役立ててください。ピラット・ブットとアンジョニーナ・ジェニーを代役に立てましょう。その二人と僕とで必ずこの映画をクランクアップ(完成)させますんで安心して下さい」

ジャニス役俳優「おめえの代役だよ! おめえがいらねえんだよ!」

ナンシー役女優「頭おかしいんじゃないのあんた!」
紆余曲折があったものの、青春群像映画「4015丁目のダイナーが夕陽に染まる頃」は無事完成しました。しかし残念ながら興行的には振いませんでした。だが時を経て、その稚拙な演技と画面から伝わる演者のピリピリ感とバタ臭い世界観が、一部の若者から熱狂的な支持を受けて、伝説のカルトムービーとして人気が出たのでした。

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梅田店ひろ

シューケアマイスターはハンズ独自の研修と厳しい試験をくぐりぬけた、シューケアに関する知識とスキルを兼ね備えたスペシャリストです。お客様の靴に合ったシューケア用品や、お手入れ方法などをご紹介します。 店頭にてお気軽にお声がけください!

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